この記事の話

Bluesky という SNS がある。X の代わりとして知られているが、珍しいのは中身だ。

ふつうの SNS は、投稿もフォロー関係も会社のサーバーに入っている。Bluesky は違う。AT Protocol(atproto)という共通の決まりを作って、その上にアプリを作った。決まりが公開されているので、誰でも同じ土台の上に別のアプリを作れる。実際、千を超えるアプリが動いている。この全体を Atmosphere と呼ぶ。

ここで扱うのは、その Atmosphere で誰がどう稼ぐのかという話だ。

先に結論を書く。この仕組みの上では、ふつうのやり方でお金が取れない。囲い込めないように作ってあるからだ。

Bluesky の稼ぎは、Tシャツとドメインだけだ

Bluesky を運営する会社は、投資家から合計1億2,300万ドルを集めた。日本円でおよそ180億円になる。ユーザーは4,500万人。社員は50人しかいない。

売っているものがないわけではない。2023年からドメインを売っている。自分で買ったドメインを、そのままアカウント名に使える仕組みだ。2025年にはTシャツも売った。Zuckerberg が着ていたシャツへの返しとして作った40ドルのシャツだ。

そのTシャツが、1日でドメイン2年分より多く売れた。COO の Rose Wang がそう明かしている

つまり、稼ぎの柱と呼べるものがまだない。

有料プランの構想は2024年12月に出た。月8ドルで、プロフィールにバッジが付き、長い動画を上げられるようになる。投稿の分析やプロフィールの飾りも並んでいた。だが1年9か月たっても始まっていない。

CEO は2026年3月に交代した。創業から率いてきた Jay Graber が退き、7月に Toni Schneider が正式に就いた。Schneider は WordPress を作った会社 Automattic を10年率いた人物だ。その彼が8月のインタビューでこう言っている。「具体的な中身は言えないが、今年のうちに収益化を始める」。

なぜ取れないのか

理由は2種類ある。やらないと決めたものと、そもそもできないものだ。この2つは性質が違う。前者は気が変われば覆るが、後者は覆らない。

やらないと決めたもの

広告は入れない。暗号通貨も使わない。AI の学習データも売らない。表示順を買えるようにもしない。

ただし、自分がやらないだけだSchneider はこう言っている。「うちのビジネスモデルが、あなたのビジネスモデルを決めるわけではない。広告ネットワークを作りたければ作ればいい」。

実際、広告は他社がやっている。Graze という会社がフィードに広告を入れて稼いでいたが、2026年8月に Flipboard に買われた。

これらは全部ひっくり返る。180億円を出した投資家は、いつか回収したいはずだからだ。

そもそもできないもの

ここからが本題だ。4つある。どれも atproto の同じ性質から出ている

第一に、公開した投稿には課金できない。

投稿は PDS(Personal Data Server)という場所に置かれる。ひとりひとりが持つ、自分のデータ置き場だ。ここに書いたものはネットワーク全体へ流れる。

画面に有料の壁を立てても意味がない。仕組みを知っている人は、壁を回り込んで元のデータを取れるからだ。日本の創作サイト ATelier は、これを利用者にこう説明している

PDS は公開の場所なので、そこに置いたものは誰でも読めてしまいます。画面で隠していても、仕組みを知っている人は直接取り出せます。だから、見せてはいけないものは最初から置きません。

つまり有料にした瞬間、そのデータは Atmosphere の外へ出る。課金と公開は両立しない

第二に、アプリにも課金できない。

同じ投稿を表示するアプリがいくつもある。公式アプリが気に入らなければ、TOKIMEKIDeer に乗り換えればいい。データはどのアプリからも読めるので、移っても何も失わない。

だから公式アプリに広告を出しても、嫌な人は別のアプリへ逃げるだけだ。画面を人質に取れない

第三に、アカウントも人質に取れない。

アカウントの中身は別の置き場へ移せる。名前も自分のドメインを使える。「アカウントを消されたくなければ払え」が成り立たない。Twitter の認証バッジのような商売は、ここでは無理だ。

第四に、友達も人質に取れない。

誰が誰をフォローしているかは公開されている。別のアプリが同じ関係を読み込める。「友達がいるから離れられない」という状態が、設計上そもそも起きない。

この4つは全部、同じことを言っている。atproto は囲い込めないように作られた。囲い込めないなら、囲い込みを前提にした商売は成り立たない。

Schneider 自身が、WordPress を支える GPL というライセンスになぞらえて説明している。誰でも使えるが、手を入れたものを配るなら、そのソースも同じ条件で公開することになる。

それでも残る5つの道

では何も売れないのか。そうではない。囲い込まなくてもお金を取れるものが4つある。預かる、閉じる、手間を引き受ける、仲介するだ。

預かる。データが公開でも、置き場所を動かすには電気代とサーバー代がかかる。誰かが払わなければならない。移せるが、移すのは面倒だ。だから置き場所を貸す商売は成り立つ。

閉じる。公開しないデータを作れば、そこには課金できる。いま atproto は全部が公開だが、非公開のデータを扱えるようにする拡張を Bluesky が作っている。

手間を引き受ける。書きやすいエディタ、見やすい画面、サポート、メールの配信。プロトコルはこういうものを用意しない。だから誰かが作って売れる。

仲介する。誰かが誰かに客を紹介したとき、その利益の一部をもらう。

そして5つ目がある。外で稼ぐという手だ。ソーシャルな部分は無料のまま開けておき、まったく別の事業で運営費を賄う。Mozilla が検索の収入で Firefox を支えているのがその例だ。

この5つ目だけが、2つの制約をどちらも受けない。課金する相手が Atmosphere の外にいるからだ。

Bluesky が選んだのは「仲介」だった。2026年内に始めるという。

5つ目の道を、もう少し見る

「外で稼ぐ」は、ほかの4つと性質が違う。Atmosphere の中でお金を取ることを諦める方法だからだ。

たとえば、誰もが遊ばずにいられないゲームを作る。その売上でネットワークの運営費を払う。ソーシャルな部分は無料のまま開けておく。

いいことが3つある。課金する相手が外にいるので、公開の問題も囲い込みの問題も起きない。利用者からお金を取らずに済む。そして atproto の上にゲームを作れば、すでにあるアカウントと友達関係をそのまま使える。しかもゲームの中の持ち物は非公開にできるので、「閉じる」も兼ねる。

困ることも3つある。ゲームは当たり外れが大きすぎて、毎月の運営費を賄う手段には向かない。売上の大きいほうへ組織が傾き、ゲーム会社がネットワークを片手間でやることになる。そして当たったら買われる。Wordle は個人が作ったパズルで、2022年に New York Times が買った。額は「100万ドル台」と報じられている。Graze も同じだ。独立を保つには、当たりすぎてはいけない

この道はすでに試されている

atproto の上でゲームを作る動きが、2026年に入って出てきた。

5月15日、Chad Loder が Zork という古い文字だけのゲームを atproto に載せた。ゲームの進行状況を全部データにして PDS へ置き、サーバーには何も残さない作りだ。ノートパソコンで動く。いいね481、リポスト116が付いた。この時期では飛び抜けた反応だ。

7月23日には Lorenzo Pecchio がこう書いた。「なぜゲーム開発者は atproto を試していないのか」。セーブも集めたアイテムも持ち物も PDS に置ける。一つのゲームから次のゲームへキャラクターを持ち越せる。そういう使い道だ。

9月に入って試作が2つ出た。どの PDS を使っているかで陣営と縄張りが決まる Grand Theft Atmo と、ゲームの遊び方を共有する取り決めを作っている ATProto Games WG だ。後者は Colibri というチャットアプリで試せる。Steam と Discord をつないで、遊んだ記録を共有する仕組みを作っている。

関心はある。だが事業として回している例は、まだない

いま誰が何を売っているか

Bluesky 本体が売っているのは、ドメインとTシャツだけだ。180億円を集め、4,500万人を抱えていて、稼ぎはそれだけだ。

Graze は仲介で稼いでいた。21か月で410億件の投稿を約1,200万人へ配り、7,000を超えるフィードを抱えていた。アクセスの6割が収入になっていたという。稼ぎの7割はフィードを作った人に渡していた。社員は2人、集めた資金は100万ドル。2026年8月に Flipboard が買収した

SkyFeed は手間を引き受けている。7万5,000以上のフィードを配信していて、月に1,000ユーロかかる。寄付は200ユーロしか集まらない。差額は作者の自腹だった。2026年8月、月5ユーロの有料プランを始めた。広告は拒否している。「SkyFeed に広告は永遠に入れない。アルゴリズムを選べるという理念に反するからだ」。

Blacksky は場所を貸している。法人を作って投資を受けた。創業者は2026年8月に Mozilla のフェローになり、非公開データの仕様をこれから公開する。「閉じる」の設計は、本体と外の両方から進んでいる

Leaflet も手間を引き受けている。メールの配信が月12ドルだ。

TOKIMEKI は何も売れていない。日本で広く使われているアプリだが、月に数百ドルの赤字が出ている。2026年9月、支援者にバッジを出す仕組みを作った。

黒字が確かめられるのは Graze だけだ。そしてその1社は独立を保てなかった

数字を2つ並べておく

Bluesky が集めたお金は1億2,300万ドル。一方、atproto を使う開発者へ配った助成金は、枠が1万ドルだった。しかも使い切っていない。8件に配って4,800ドル。残りは2,200ドルのまま、2025年から募集を止めている。

配った先は、Blacksky に1,000ドル、SkyBridge に800ドル、そして TOKIMEKI に500ドルだ。2024年4月の話で、そのとき「日本で人気のあるサードパーティのクライアント」と紹介されている。その2年半後、同じ開発者は月に数百ドルを使っていて収入が追いついていないと書いた。2024年に受け取った500ドルは、いまのひと月分ほどの額だ

8件に配った4,800ドルは、SkyFeed の運営費(月1,000ユーロ)の4か月から5か月分にすぎない。

これからどうなるか

確かだと思うこと

Bluesky はアフィリエイトを選んだ。誰かのニュースレターに読者を紹介し、その人が購読したら、購読料の一部をもらう。Schneider は限定を付けている。「もらうのは、うちが実際に生んだ分の何%かだけだ」。

面白いのは、その取り分を Bluesky だけのものにしないと言っていることだ。ニュースレターの書き手に読者を送ったのが、公式アプリではなく TOKIMEKI や誰か個人だったとする。その送り手にも分け前が出る、という設計にするらしい。ニュースレターの書き手に読者を送った人なら、このネットワークの誰であれ分け前を受け取れる。全員に取り分があるようにしたい」。

非公開データも来る。名前は ATProto Spaces といって、Bluesky の Daniel Holmgren が設計している。2026年8月にアルファが公開された。Schneider はこれを「プロトコルの次の進化」と呼び、「いま作っている最中で、まもなく出る」と言っている。利用者からの要望でも第1位だそうだ。「いま atproto 上のものは全部が公開だ。非公開のデータを扱えるようになれば、使い道は10倍か100倍になる」。

怪しいと思うこと

アフィリエイトが成り立つかどうかは、どれだけ人を送れるかで決まる。4,500万人では X や Meta に届かない、と思うかもしれない。だが Bluesky は1日に200万回のクリックを外のサイトへ送っている。複数の媒体で、いちばん多く人を送ってくる相手だそうだ。1年で7億回になる。足りないとすれば、クリックの数ではなく、そこから購読へ進む割合のほうだ

分配の約束と、決済を1社に集めることは、たぶんぶつかる。本人も認めている。「分散したネットワークでも動かせる。ただ決済となると、どこか一箇所を信用する形がどうしても要る」。誰がお金を受け取って誰に配るかを1社が握るなら、そこに新しい依存が生まれる。

広告の置き場所は、Bluesky の外に空いている。本体が採らず、他人がやるのは構わないと言っているからだ。

そこに Flipboard が来た。Graze を買って、フィードを作る仕組みを Bluesky の外の atproto アプリと自社の Surf へ広げると言っている。ただし、広告も一緒に広げるとは言っていない。買収を報じた記事にも、そこまでは書かれていない。

だが Graze はもともと広告で回っていた。稼ぎの7割をフィードの作り手に渡す形で、広告主とのつながりも Flipboard のものになった。材料は揃っている。やるかどうかは、まだ分からない。

分かれ目

Bluesky 自身が場所貸しを始めるかどうか。Automattic の前例からは、そちらへ寄ると読める。だが Schneider は WordPress を「少し違うモデルだ。あれはホスティングのモデルだから」と言って、自分たちとは区別している。そのうえでこう評価する。「WordPress のホストは何千もあって、どこもうまくやっている。サイトはどこに置いてもいいし、どこへでも移せる。互いに競争していて、見たかぎり誰か一社が市場を全部取ることにはなっていない。とても良いモデルだ」。本体は場所貸しに回らず、そこを他社の場所として残すつもりらしい。そのとおりになるかは分からない。

「閉じる」が公開の部分を痩せさせるかもしれない。有料のものと非公開のものが閉じた場所へ移ると、公開の側に残るのは無料のものだけになる。ATelier の設計がすでにその形だ。公開して無料のものだけを PDS に置き、有料のものは別の場所で預かっている。

握っていたものを手放してもいる

お金の話と同時に、Bluesky は自分が握っていた部分を外へ出しにかかっている。ただしどちらもまだ途中だ。

アカウント名から、そのアカウント固有の識別子を引くための台帳がある。ウェブでドメイン名から場所を調べる仕組み(DNS)と同じ役目だ。これをスイスに作る非営利の法人へ渡すという。法人はまだ設立の途中で、ドメインの移管もこれからだ。

プロトコルの仕様は、インターネットの技術を決める国際的な団体(IETF)へ渡す手続きが始まった。2026年7月にウィーンで会合があり、atproto が IETF の正式な取り組みとして認められた。ただし認められたのは検討の場であって、標準として決まるのはこれからだ。この手続きは年単位でかかる。

理由を本人がこう言っている。「一社が支配しようとしたら、この仕組みは動かない。振り出しに戻って、囲い込まれた場所がもう一つ増えるだけだ」。

日本から見ると

日本のサードパーティは、5つのどれもできていない。理由は3つある。

第一に、お金を受け取る手段が国内向けだ。TOKIMEKI の作者が pixiv の FANBOX を使うのは、日本の読者にいちばん近いからだ。支援者にバッジを出す仕組みも作った。だがお金が動くのは FANBOX の側で、バッジのほうだけが atproto の上にある。英語圏の読者がバッジを見て払おうとしても、行き先は日本のサービスになる。

第二に、制度に合わせる動きがない。SkyFeed の作者は、課金のためにわざわざ EU にサイトを作り直した。GitHub の寄付機能では付加価値税を処理できないからだ。欧州の開発者は、お金を受け取るために法人の置き場所まで変えている。日本側に同じ動きは見えない。

第三に、書く言語で内容の細かさが変わる。2026年9月11日、TOKIMEKI の作者は英語で「Atmosphere の開発者には稼ぐ手段がほとんどない」と書いた。その1時間20分後、日本語で「サブスクの想定が甘くてやらかした」と書いている。アカウントも別だ。

隠しているわけではない。英語では Atmosphere 全体の問題として、日本語では自分の具体的な事情として書いている。読む相手が違えば、書くことも変わる。

ただし結果は残る。英語圏に届くのは一般論のほうで、いくら足りないのかという中身は日本語の側にある。支援を求める相手が英語圏にいるなら、届いてほしいのはそちらのほうだ。

この読みが外れるとしたら

有料プランが出て、想定を超えて売れた場合。アフィリエイトは要らなくなる。1年9か月止まっている事実からは考えにくいが、ありうる。

非公開の場所に人が集まらなかった場合。「閉じる」の読みが外れる。Discord がすでにその役をやっている。

分配の約束が、作ってみたら守られなかった場合。決済を1社が握ったせいで「誰でも参加できる」が絵に描いた餅になるなら、そこで分かる。

公開したデータに課金する方法が見つかった場合。前提が全部変わる。いまのところ、そういう提案は出ていない。

日本から国際的な課金に乗る例が出た場合。日本についての見立てが外れる。

出典