ある日、返信も引用もできない投稿を見つけた

先日、Blueskyであるユーザーの投稿を見かけました。その人は誰かの投稿を引用して自分の意見を書いていたのですが、私がその投稿に反応しようとしたら、返信ボタンも引用ボタンも押せない。できるのはリポスト(そのまま転載)だけ。

「あれ、ブロックされてる?」と一瞬思いましたが、違いました。その人が投稿するときに「返信と引用は受け付けない」という設定をしていたのです。

Blueskyには、投稿ごとに「誰がどう反応できるか」を細かく設定できる機能があります。これ、単なる便利機能ではなく、よく考えると言葉の届け方そのものをデザインしているんですね。

今回は、この機能を「発話行為論」という言語哲学の考え方から読み解いてみます。


設定できる3つのスイッチ

Blueskyでは、投稿するときに以下の3つを個別にオン・オフできます。

  • 返信:その投稿に直接コメントできるか

  • リポスト:そのまま自分のタイムラインに流せるか

  • 引用:自分のコメントを付けて再投稿できるか

この組み合わせで、投稿の「届き方」がまったく変わります。


組み合わせで変わる「投稿の性格」

いくつか例を見てみましょう。

すべてオン(返信○・リポスト○・引用○)

もっとも開かれた状態。「みんなで話そう」「どんどん広めて」「好きに解釈して」という姿勢です。議論を呼びたいとき、集合知を集めたいときに向いています。

リポストだけオン(返信×・リポスト○・引用×)

冒頭で見かけたパターンがこれ。「この言葉をそのまま届けたい。でも議論はしたくないし、切り取られたくもない」という意図が読み取れます。声明や告知、意見表明に向いています。

返信だけオン(返信○・リポスト×・引用×)

「広まらなくていいから、フォロワーと静かに話したい」。クローズドな対話向きです。

すべてオフ(返信×・リポスト×・引用×)

完全に閉じた発話。日記や独白、あるいは「記録として残すだけ」の投稿。


「発話行為論」という考え方

ここで少し言語哲学の話をします。

1960年代、イギリスの哲学者オースティンは「言葉を発するとは、実は3つのことを同時にやっている」と指摘しました。これが「発話行為論」です。

  • 発語行為:音や文字を発すること(「明日会議です」と言う)

  • 発語内行為:その発話で何をしようとしているか(通知? 依頼? 命令?)

  • 発語媒介行為:相手にどんな効果を与えるか(納得させる、怒らせる、行動させる)

たとえば「明日会議です」という同じ言葉でも、「お知らせ」なのか「来いという命令」なのか「予定確認の質問」なのかで意味が違う。そして、相手が「わかりました」と納得するか「また会議か」とうんざりするかは、言った後の効果の話です。


SNSでは「届き方」が制御できなかった

従来のSNS——たとえばX(旧Twitter)——では、投稿したら最後、どう届くかは投稿者の手を離れていました。

賛同のリポストも、悪意ある引用も、炎上する返信ツリーも、すべて「野に放つ」モデル。発語媒介行為(相手への効果)は、事実上コントロール不能だったのです(現在、投稿の公開範囲や、リプライについてはある程度制御できます)。


Blueskyが変えたこと

Blueskyでは、投稿するときに「誰がどう反応できるか」を設定できるようになりました。

発語媒介行為を事前にデザインできるようになった

返信をオフにすれば、議論は起きない。引用をオフにすれば、文脈を切り取られない。リポストだけ許可すれば、原文のまま届く。

つまり、「何を言うか」だけでなく「どう届いてほしいか」まで含めて、投稿という発話行為が完成するようになったのです。


これは何を意味するのか

言い換えると、ミームの伝播設計権が投稿者に移ったということです。

従来は、投稿がどう広がり、どう解釈され、どう変容するかはプラットフォームとユーザーたちの「生態系」に委ねられていました。

いまは、投稿者自身が「この言葉はこう届いてほしい」と設計できる。声明なのか、対話の呼びかけなのか、独白なのか——言葉の性格を、言葉を発する時点で決められる。


トレードオフもある

もちろん、いいことばかりではありません。

  • 「なぜ返信できないんだ」という不満や摩擦

  • 対話の機会が失われるリスク

  • 設定が複雑で、投稿するたびに考えることが増える

プラットフォームの「対話性」と「発話者の制御権」は、ある程度トレードオフの関係にあります。


おわりに

ある投稿に返信できなかったことから、こんなことを考えました。

SNSで言葉を発するとき、私たちは「何を言うか」だけでなく「どう届いてほしいか」も選べる時代に入っている。それは自由であると同時に、責任でもある。

「返信できない投稿」を見かけたら、「なんで?」と思う前に、「この人はこの言葉をどう届けたかったんだろう」と考えてみると、少し見え方が変わるかもしれません。


📚|参考

New Anti-Toxicity Features on Bluesky - Bluesky
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